CGAコンテストレポートin 大阪 という皮をかぶった、「ネット声優」の話 編集部:舩本昇竜
突然だが、「ネット声優」という言葉を聞いたことはないだろうか? いきなりな出だしであるが、今回のコンテスト入賞作品を観ていて最も強く感 じたのが、「『音』がきちんと付いている作品が非常に多い」ということ。字幕 ではない、「しゃべる」キャラクターがそこにいるのだ。 BGMや効果音に関しては、ここ数年でようやく整い出す傾向にあった。おそら く、市販されている、いわゆる「マルチメディア素材集」のつかえるモノが増え てきたことと、そういった素材の認知度が上がってきたため。そして、最近は一 般の人が見ても、純粋にすごいと思わせる映像に仕上がるようになったので、 「このCGAに曲をつけて」と頼みやすくなった。等々の理由が考えられるだろう。 それはそうと、台詞だ。それは詰まるところ、というか、あっという間に「声 優の確保」という深刻な問題に直面する。作品毎に必要な台詞は異なるため、汎 用台詞集などほとんど役に立たない。E.V.S.(ときめきメモリアル2で実現され た名前を呼んでくれるシステム)の台詞版ソフトがあるわけでもなし。ハテサテ? と、その秘密を探っているうちに、あるキーワードに遭遇した。そのキーワー ドこそ「ネット声優」なのだ。 ○その名は「ネット声優」 文字通りである。インター「ネット」上の「声優」だから「ネット声優」。も う少し、詳しくいうと、「何らかの録音環境があり、録音内容を何らかのカタチ でデジタルデータ化し、ネット上でデータを送受信する手段を持っており、それ ら一連の作業を自分で出来る」人を指すようだ。とはいっても、録音環境といえ ば、ほとんどの場合、自宅のMDやカセットレコーダーにマイクをつけたモノ。デ ジタルデータ化といえば、サウンドカードにMDないしカセットの出力を(大抵ア ナログで)入れ、メディアプレーヤーでサンプリング。というパターンとなる。 彼ら彼女らの作業フローは次のようになる。声優の台詞を必要としている人が、 ネット声優を見つけ、必要な台詞を指示する。ネット声優は(主に)自宅で(主 に)MDに台詞を吹き込み、MDから(主に)WAV/MP3データに変換。そのまま、ネッ トを使い、データを送信。うむむ、冗談みたいなハナシであるが、まだ20世紀 の現在、実際に行われているという。 原理的に可能であるとわかっていても、ネゴ(ネゴシエーター:仲介人とか交 渉人)なしで、いわば売り手と買い手の接点がうまく見つかるのか? と、その ような疑問を持ったトコロ、第二のキーワードが現れた。「葵せん子」。今回の CGAコンテスト東京会場の司会進行の方である。 ○せん子さんつながり せん子さんは、職業声優ではないものの、ネット上で、「声優の仕事を必要と している人」と「ネット声優」をつなげるための、専用の募集コーナーを設けて いる。そのため、当然というか、ネット声優とのリンクが多い。一方、DoGAでは、 CG作家を集めたミーティングを行っており、直接いろんな作家と意見を交換して おり、以前から「台詞がない(声優がいない)」点は問題視していた。 そのようなワケで、声優が欲しいDoGAと、つながりがあるせん子さんから、さ らにつながったネット声優の方々がつながり、今回のように、「台詞のあるCGA」 が多く実現したとのコト。すばらしい。実にすばらしい。本当に、目に見えない 部分で関係者の努力には拍手を送りたい。 さて今回、そんなネット声優の一人である亜蒼(アソウ)ナノさんに話を聞くこと が出来た。いわゆるネット声優のナノさん。今回のCGAコンテストでは、「百合 と一郎の夏」に主演されている。 ●この声に聞き覚えが=非対応メニューです (※:音声はCD-DAより出力されます) オフラインの世界では、現在、関西の声優養成 所に通われている、いわば普通の声優の卵(一応補足しておくが、本誌イカプロ のコーナーで小説を発表していたなのさんとは別人である)。お兄さんがプログ ラマということが少なからず影響してか、コンピュータはかなり詳しい様子。キ ュートな女性の口からICQという単語が飛び出し、平然かつ正しく使われ、ネッ トワークの暗部を知る、その高いセキュリティ意識には、正直、驚いた。 ○ナノさんに聞く ナノさんは、わかる人には、Windows用フリーソフトである「あにめちっく・ めぐみちゃん」の関西弁担当されている方。といえばわかるようだ。ともあれ、 まず、ナノさんにネット声優としての活躍を聞いてみた。「ネットを通じて、プ ライベート3DCGのナレーション、シェアウェアの花札ゲームのアナウンスボイス、 RPGや格闘ゲーム中の台詞、等の声をやらせてもらいました。あと、端役ではあ りますが、パッケージソフトも『傭兵戦術師団ブレイブブレイド』『ハーフヴァ ンパイアサキさん』の2本あります」 何年か前、激光電脳倶楽部で展開していた「イカプロ声優のアレ」のオンライ ンかつ第三者のネゴが入った版、といっていいだろう。続いて、下世話な話、つ まり報酬などについても聞いてみた。「大抵の場合、ボランティアみたいなもの ですね。お願いされる方も個人的にという方が多いですし。ネット声優で金儲け をしようというわけでなく、まず声を使ってもらいたいという思いがありますか ら」 先にも少し触れたが、ナノさんは実にチャーミングな方である。ここ数年「最 近の声優はルックスがよい」といわれ、下手なアイドルより、よほどビジネスに なっている。そんなわけで、失礼ながらも、アイドル的意味をネット声優の活動 に含めているか聞いてみた。「いわゆるネット声優にもいろんなタイプがあると 思います。興味本位だけでやっている人もいるようですね。自分の素顔の写真や 本名をアップしたり。私はしません。怖いですから。それ以前に、どちらかとい えば目立ちたくないほうです。もともとは、ただ声を出すのが好き、演じるのが 好きというだけで、声優を指向するようになりましたから」そんなわけで、本人 の希望もあり、写真は撮らなかった。チト悔しい。と思ったコトは秘密だ。 ナノさんのホームページには、インターネットラジオドラマもアップされてい る。興味のある方は一度訪れてみて欲しい。 ・LAWとCHAOSと楽園と http://www.people.or.jp/~nano/ ※トップページから、ジャンプ出来る別館が声関連のページです。 ○これから先の作りたい世代へ 電脳倶楽部でも、主に「イカP」コーナーで、読者の「作りたい」を応援して きたわけだが、実際問題的な限界は確かにあった。そんななか、ネット声優なる 存在が現れ、実際CGAという「作りたい」気持ちに、いい具合に反応したカタチ を目撃した。今後、電脳倶楽部読者のなかにも、今後、声優が必要なモノを作り たいという人が出るかもしれない。そんな時は、彼ら彼女らに、コンタクトして みるのもいいかもしれない。そのためにも、このようにして紹介させてもらった 次第である。 ○すご電のあのゲームの関係者が すごく、本当に、なんというか、本当にここ数年は、コンテスト会場はともか く、その後の立食パーティーまで顔を出すのがはばかられる。というか、完全に 取り残された爺さん状態だ。「昔X680x0を使っていました」という人もいないの が現状だ。 さて、今回入選した「eject」という作品。最近のコンテストでは珍しい、ビュ ーンと飛んできて、ドバババと撃って、ドカンドカンと爆発。OK。という、最 近のコンテストでは珍しい、自分が作りたいモノ一直線作品。の作者である工藤 憲和さんと「自分の作りたいモノをストレートに表現するっていいですよね」な どと話をしていると、なんと、工藤さんは、すごい電脳倶楽部に掲載したシュー ティングゲーム「ANGEL DIVE」のグラフィックデザインをされていたことが判明。 ほほお。現在は、ゲーム会社でご活躍。「優等生的なCGも多いですが、私は爽快 感を追求したいですね。今現在、X680x0をさわっていませんが、X680x0で身につ けたポリシーのある作品作りは守っていきたいです」とのコト。作り手が頑張ら れている姿を見るのは、やはり、いいものだったりする。と同時に、頑張って何 かを作ったことがある人はいつだって頑張ったモノ作りが出来るということを、 確認してもらったような気すらする。 (EOF)